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病院経営の強化につなげる回復期リハ病棟開設戦略

マネージングディレクター 松浦 年洋

日本政策投資銀行が、マンスリーレポート「ヘルスケア産業の新潮流」として、緩和ケア病棟および回復期リハ病棟の開設に当たっての現状や課題について分析した結果を公表しました。

いずれも現状では、必要と考えられている病床数に対する病床の充足率が低い上に、地域によるバラツキが大きいことが特徴です。また、日本における死亡率の高い癌や脳血管疾患に対応する医療機能として大変注目されていることも確かです。同レポートでは、こうした状況を踏まえて、これらの病棟の開設を「病院経営上の強みになる可能性がある」と述べられているが、あまりにも医療の現状を知らない見解であると言わざるを得ません。

「病院経営の強化」という観点から病棟の開設を検討する際には、病棟運営上の成功要因について検討する必要があります。回復期リハ病棟に関して言えば、一床当たりの「回転率」と「平均在院日数」がそれです。さらには、病院に求められる機能を、疾患の自然史に基づき設計しなければなりません。リハビリテーションでは、急性期、回復期、維持期のいずれにフォーカスすべきなのか、という点について検討されなければなりません。すなわち、オプションとしては、

①急性期に特化するのか
②回復期に特化するのか
③急性期、回復期を一体として運営するのか

となります。

同レポートでは、これらの点についての分析がなく、病院経営の強化につなげることは難しいと思われます。

では、前述した病棟経営上の成功要因について、回復期リハ病棟を例に検討していきたいと思います。

病棟運営上の成功要因

まず一床当たりの年間の医業収入について考えてみましょう。

一床当たりの年間の医業収入は、

患者一人当たり診療費×一床当たり年間回転率

で求められます。

したがって、病棟運営上のオプションとしては、

①患者一人当たり診療費を増やすか
②一床年間当たり回転率を上げる

のいずれかです。

「患者一人当たり診療費」は、

{入院基本料+(リハビリテーション料×リハ実施単位数)}×平均在院日数

になります。※説明の便宜上、加算等は省略しています。

「一床当たり年間回転率」は、

365÷平均在院日数

で求められます。

いずれも「平均在院日数」が構成要素となっていることから、両者はトレードオフの関係にあることが分かります。つまり、平均在院日数を短縮すれば「一床当たり年間回転率」を上げることができますが、一方で、「患者一人当たり診療費」は下がってしまいます。

どちらを選択すべきか

では、どちらを選択すべきでしょうか。ポイントはリハ実施単位数にあります。

2007年度の診療報酬改訂で、リハ実施単位数の上限が6単位から9単位に引き上げられました。回復期リハにおいて重要なことは「発症早期」の集中的リハです。リハ実施単位数の上限が引き上げられたのもそのためです。つまり、リハ実施単位数の引き上げによって、在院日数を短縮し、早期の社会復帰につなげることができるということです。

単純に考えても、在院日数の短縮によって、結果として患者さん一人当たりの負担額は減るはずです。

ここでは簡単なシミュレーションとして、

①リハ実施単位数を従前の6単位、平均在院日数を90日、とした場合と②リハ実施単位数を改定後の9単位、平均在院日数を70日、とした場合
とを比較してみましょう。

①の場合

患者一人当たり診療費
={入院基本料+(リハビリテーション料×リハ実施単位数)}×平均在院日数
={16,800+(2,500×6)}×90
=2,862,000円

一床当たり年間回転率
=365÷平均在院日数
=365÷90
=約4.1回転

一床当たりの年間の医業収入
=患者一人当たり診療費×一床当たり年間回転率
=2,862,000×4.1
=11,734,200円

②の場合

患者一人当たり診療費
={入院基本料+(リハビリテーション料×リハ実施単位数)}×平均在院日数
={16,800+(2,500×9)}×70
=2,752,000円(110,000円減)

一床当たり年間回転率
=365÷平均在院日数
=365÷70
=約5.2回転

一床当たりの年間の医業収入
=患者一人当たり診療費×一床当たり年間回転率
=2,752,000×5.2
=14,310,400円(2,576,200円増)

上記のとおり、実施単位数の増加によって、患者一人当たりの診療費は減りますが、一床当たりの年間の医業収入は増えます。つまり、患者さんの負担は減る一方で、病院の医業収入は増えるわけです。

上記は、あくまでもさまざまな諸条件を排除した場合の理論値に過ぎませんが、現状の診療報酬体系では、リハ実施単位数を増やし、平均在院日数を短縮することが病院経営上プラスに働く可能性が高いということになります。

さらにこれを進めて、リハ実施単位数を増やすためにはどうしたらよいでしょうか?

そうです。リハはマンパワーによって支えられています。つまり、そのためのスタッフを確保し、育成することが重要な戦略になってくるということです。

まとめ

以上見てきたとおり、病院経営を考える際には、患者さんにとっての負担、医療の質、医療資源の効率的な利用などさまざまな観点から検討される必要があります。

患者さんにとって必要な病床が充足されるという点では、多くの病院で病床の転換等が検討されることは、もちろん歓迎されるべきことです。また、病院の経営基盤の強化ということは、医療機関の永続性という点からも重要です。しかしながら、単に潜在的にマーケットが存在する、というだけで経営の強化と結びつける考え方は、病院の社会的な資源としての役割を果たすとの観点が見過ごされているように思われます。