病院PFIの新たな展開(その2)~「医療提供」を含む「包括型コンソーシアム」方式の提案~
マネージングディレクター 松浦 年洋
前回は、近江八幡市立総合医療センター(近江八幡市民病院)の赤字報道に関連して、同事例は「病院PFIの失敗事例」ではなく、単なる「自治体病院経営の失敗事例」であると述べました。しかしながら、一方で、現状の病院PFIのスキームに「致命的な欠陥」があることも事実です。「致命的な欠陥」とは、端的には、コア業務(医療行為)とノンコア業務(施設整備・維持管理、医療周辺サービス)を別の経営主体が行っているという点です。この背景には、現状の医療法では、コア業務をPFI事業者であるSPCが行うことができない、という法的的な制約があります。
英国のNHSでは、このスキームが定着しており、いわゆる「英国型」の病院PFIが、事業モデルとして決して間違っているということではありません。ただし、英国では、病院経営は従前から公共部門が提供しており、英国におけるいわゆるNPMの導入に際しても、病院PFIに関してはコア業務を直営とするとの前提に制度設計された、という経緯に留意する必要があります。
したがって、日本で病院事業にPFIを導入する際には、前述した「医療法の壁」が制約条件になることは確かですが、政策的にコア業務を公共部門が行うという「英国型」の病院PFIを無理に日本の現状に「当てはめる」必要はありません。むしろ、「英国型」の病院PFIでは、「民間事業者のノウハウを最大限に活用する」というPPP本来の目的の達成することが、少なくとも現状の日本では大変に難しいと思われます。
パブリシヴァでは、今後の病院PFIは、「医療提供」を含む「包括型コンソーシアム」方式によるべきである、と考えています。つまり、コア業務とノンコア業務を一体として民間事業者が行うというスキームです。
本稿では、近江八幡市民病院の事例も踏まえて、今後の病院PFIの「新たな展開」について検討してみたいと思います。
病院PFIにおける課題
パブリシヴァでは、現状の病院PFIについて、以下の3点が大きな課題であると考えています。
①病院PFIの複雑さと自治体のコミットメント不足
②経営上のリスク負担の分散の発生
③アウトソーシングの非効率性
では、順に検討していきましょう。
病院PFIの複雑さと自治体のコミットメント不足
いわゆるPFI法が制定されてから丸9年が経過しようとしています。財政難に悲鳴をあげていた自治体にとって、PFIという聞き慣れない手法はペリーの黒船のような衝撃を与えたでしょう。あたかも、資金を生み出す「錬金術」のような錯覚をもたらしたのではないでしょうか。事実、財政難と言われている中で、法制定後、さまざまな施設がPFIにより整備されました。
しかし、「病院事業」については、現状で実施方針が示されているものを含めても、ごくごくわずかです。実際に病院が稼働している事例としては、高知医療センターと近江八幡市民病院の2例しかありません。
「病院PFIは複雑」であるということをよく耳にします。前述した2例については、PFIの事業スキームとして、BTOかBOTかという違いはあるにせよ、コア業務は依然として自治体が行うという点で共通しています。つまり、ノンコア業務のみがPFI事業の対象になっているということです。
前述したとおり、この点が現状の病院PFIのスキームの「致命的な欠陥」である、と考えています。
現状のスキームでは、自治体とSPCとがあたかも「車の両輪」のように機能しなければ、病院機能そのものに影響を与えてしまうことは言うまでもないでしょう。官と民という2つのタイヤをつなぐための現状の解決策として、サービスレベルの設定、継続的なモニタリング、業績連動型の報酬支払スキームなど、さまざまな手法が「お家元」である英国から持ち込まれ、PFIはますますその複雑さを高めています。
問題なのは、アドバイザリー側がこうした研究をどれだけ深めたとしても、実行するのは自治体側であるということです。アドバイザリーの助言があったとしても、かなりの時間と労力がかかることは目に見えています。つまり、現状の病院PFIのスキームが成功するかどうかは、自治体が英国のように相当のリーダーシップを発揮するということが前提になります。
経営上のリスク負担の分散の発生
現状の病院PFIのスキームでは、運営上の需要変動リスクはコア業務を行う自治体側が負担しています。つまり、将来的な収支の見通しが甘かった場合、今回、近江八幡市民病院の事例で露呈したような、いわゆる「歳入不足」の状況が生じてしまうのです。
病院に限らず、経営は、「Buy Low , Sell High,(安く買って、高く売る)」が大原則です。つまり、経営者は売上と費用の双方に責任を持たなければなりません。ところが、現状のスキームでは、売上面のリスクは自治体が負担し、費用面のリスクはSPCが負担しています。つまり、経営の「責任主体」が2つに分かれてしまっているのです。
本来は、自治体がSPCへのモニタリング等を通じて、費用の点についても責任を負っているはずですが、自治体側が十分にリーダーシップを発揮できない場合、いま述べたような、経営上のリスク負担の分散が生じてしまうのです。
アウトソーシングの非効率性
ノンコア業務については、これまでも多くの業務がアウトソースされてきています。こと診療報酬のマイナス改定以降、その傾向は顕著です(検体部門がその典型でしょう)。したがって、ノンコア業務を中心とした現状の病院PFIは、ノンコア業務をまとめてアウトソースしたにすぎないともいえます。
パブリシヴァでは、アウトソーシングが、必ずしも病院経営にとってプラスに働くとは考えていません。事実、アウトソーシングすることによって、かえって非効率になる場合もあります。単純な場合は、経費がかえって過大になってしまう場合もありますし、アウトソーシングに伴う契約行為に要する時間や、契約書に記載されていない業務についての交渉、さらには事業者が迅速に対応しない場合の追加的経費を考えると、アウトソーシングすべきかどうか、ということは業務ごとに十分な検討が必要であることはすぐにわかるでしょう。検体検査や患者給食などのアウトソーシングになじむと思われているものについても同様です。
こうしたことを考えると、病院PFIが単なるアウトソーシングの延長でしかなければ、かえって非効率な経営の要因となる可能性があります。
事業の選定から協定書の締結、さらには開設後のモニタリングなど、導入に当たって目に見えてこない経費が官民双方に生じる上に、病院事業については、従来型と比較した場合に大きなインパクトがありません。この結果として、大型案件でなければ官民双方のインセンティブが働かないという状況を生み出しています。
包括型コンソーシアム方式について
前述したとおり、現状の病院PFIのスキームが「間違っている」ということではありません。申し上げたいことは、無理に英国型の病院PFIを当てはめてもうまく行かないということです。
近江八幡市民病院の事例は、現状の病院PFIのスキームには前述したような課題があることを明らかにしたものと思います。これらの課題に共通するのは、いずれもコア業務とノンコア業務を別の経営主体が行っていることに端を発しているということです。この問題を解決する端的な方法は、「需要変動リスク」をSPCに移転することです。
パブリシヴァでは、前述したとおり、コア業務とノンコア業務を一体として民間事業者が行う、「包括型コンソーシアム」方式によるべきであると考えています。「医療」、「施設」、「サービス」の三位一体化といってもよいでしょう。
具体的には、医療法人等の医療提供主体と施設整備やファイナンスを行う企業とのコンソーシアムを想定しています。現状の制度を前提とした場合、指定管理者制度を活用した公設民営方式に、PFIを導入するというスキームが考えられます。PFI事業者の選定に当たっては、前述したコンソーシアムにより提案を求め、SPCは医療提供主体を除く企業により組成します。医療提供主体は、別途指定管理者として選定し、指定管理者とSPCの間で長期委託契約を締結するのです。したがって、病院PFIというよりは、病院PPPと呼ぶべきかもしれません。
具体的なスキームとして事業化するためには、さらなる検討が必要となりますが、行き詰まり感のある病院PFIの今後の方向性として、研究する価値は大変に大きいと思います。
なお、今回提案した「包括型コンソーシアム」方式については、PwCアドバイザリーのシニアアドバイザーである山下公輔氏が「平成18年度日本版PPP調査研究部会報告書」(平成19年6月、PFI/PPP推進協議会)において大変簡潔に整理されているので、関心のある方は、同協議会を所管している「財団法人エンジニアリング振興協会」までお問い合わせいただきたいと思います。