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病院PFIの新たな展開(その3)~病院PFIをめぐる4つの誤解~

マネージングディレクター 松浦 年洋

前回は、病院PFIの新たな展開として、「医療提供」を含む「包括型コンソーシアム」方式をご提案しました。
お読みになった方は、「なぜ、医療提供まで民間事業者に任せなければうまく行かないのか」という素朴な疑問が生じたのではないでしょうか。
この疑問の背景には、病院PFIをめぐる「誤解」が根強く残っているように思います。

病院PFIをめぐる「誤解」としては、次の4点が考えられます。

誤解1:従来型よりも安く施設を調達できるのではないか?
誤解2:支払いが平準化されるので自治体の財政負担が減るのではないか?
誤解3:民間的経営が導入されることによって経営が効率化されるのではないか?
誤解4:少なくともサービスが良くなるのではないか?

これらに対する答えは、残念ながらすべてノーです。厳密に言えば、PFIによって「必然的に」導かれるものではないということです。
もちろんPFIによってその可能性が高まることは否定しません。つまり、PFIとの親和性はあるけれども相関関係はない、ともいえるでしょう。

では、以下、順に検討していきたいと思います。

誤解1:従来型よりも安く施設を調達できるのではないか?

まず、PFIにおけるVFMの源泉について考えてみたいと思います。PFIの教科書ともいえる、野田由美子氏の「PFIの知識」では、VFMの源泉として以下の4つの要素があると説明されています。

①性能発注に基づくライフサイクルの一括管理
②リスクの最適配分
③業績連動支払い
④競争原理の導入

以下、これらを病院PFIに当てはめてみましょう。

①性能発注に基づくライフサイクルの一括管理

従来型では、詳細に施設の仕様等を定めるため、民間事業者は仕様等の範囲でしかコストの削減を図ることができませんでした(いわゆるVE提案)。また、公共施設にありがちなオーバースペックも建築コストを押し上げる要因となっていました。

これに対して、性能発注は、公共部門は達成すべきサービスレベルのみ提示し、そのための仕様等については民間事業者に任せるという考え方です。加えて、施設建築後の維持管理業務を一括してPFI事業者が行うことによる維持管理コストの削減も期待できます。
これがVFMの源泉になるわけです。

しかしながら、性能発注といっても、現実には消防法をはじめとする各種法令による規制がありますし、加えて病院の場合には医療法上の規制もクリアしなければなりません。結果、仕様等について民間事業者に任せるといっても、民間事業者が自由に発想できる範囲は限定的です。

このため、病院PFIでは、他の施設と比較して性能発注によるVFMはあまり期待できないと考えられます。

後に述べるように、主としてこの建築コストが病院PFIにおけるVFMの源泉となっていると考えられますが、むしろ他の要因によって、VFMが相殺されてしまっている可能性があります。

②リスクの最適配分

現状の病院PFIのスキームでは、施設の整備、維持管理、そして医療関連サービスがPFI事業の範囲となっています。
施設の整備に関しては、PFI事業者が負担するリスク相当分が建築コストに織り込まれていることから、前述した性能発注にともなう建築コストの削減としてVFMが期待できます。

一方で、後述するとおり、施設の維持管理と医療関連サービスについては、PFI事業者にリスクを負担させることによって、結果として、公共部門が支払う毎年のサービス料を押し上げる要因となっています。これが、建築コストによって生み出されたVFMが相殺されてしまうと述べた理由です。

③業績連動支払い

業績連動支払いとは、提示したサービスレベルを達成できなかった場合に、委託料の引き下げを行うなどのペナルティを課すことによって、要求水準を実現しようとするものです。
モニタリングの実施は前提条件ですが、サービスレベルが達成できているかどうかの判断は、サービスレベルそのものが適切に設定できているかどうかに関わってきます。
つまり、「測定可能な」サービスレベルが設定されていなければ、委託料を実際に引き下げるまでの根拠にはならないということです。この結果、現状では業績連動支払いは十分に機能していないものと思われます。

④競争原理の導入

前回も述べたとおり、病院PFIの事例は極めて少ないのが現状です。
ここまで述べてきたとおり、現状の病院PFIでは必ずしも大きなVFMを生み出すことができていません。このため、大型案件でなければ病院事業にPFIを導入しようというインセンティブが働かないことが原因の一つになっているものと考えています。

現状では、大手のゼネコン等を中心としたコンソーシアムでなければ、この市場に参入することは難しいでしょう。この結果として、競争原理が十分に働いていないと考えられます。

以上、VFMの源泉といわれている4つの要素について検討してきましたが、現状の病院PFIでは、決して、従来型と比較して安く調達できるとはいえないことがお分かりいただけたと思います。

誤解2:支払いが平準化されるので自治体の財政負担が減るのではないか?

VFMは従来型と比較した場合のLCCで評価されます。したがって、PFIを適用すべきかどうかの判断に当たってVFMがあると評価された場合には、自治体の財政負担は従来型と比較して減るはずです。しかしながら、毎年の支払いが少なくて済むかというと必ずしもそうとはいえないでしょう。

従来型で施設整備のために起債(病院事業債)をした場合を考えてみましょう。
最新の金利では30年の元利金等払いで2.1%、かつ5年間償還猶予されます。民間事業者が施設を整備するために資金を調達する際には、当然資本調達コストが上乗せされますので、起債した場合よりも当然金利は高くなるはずです。

もちろん事業費がすべて起債でまかなえるわけではありません。起債対象は当該施設との不可分一体性が求められるため、おおむね事業費総額の2割程度は起債の対象外とされてしまいます。しかしながら病院事業債の充当率は、起債対象の100%です。したがって、仮に建築費総額が200億円の施設であれば、160億円程度は起債で充当されることになります。

初年度の一般財源の負担額は大きくなりますが、こと施設整備に関しては、将来的な単年度での負担額は民間事業者が資金調達した場合よりも安くなるでしょう。

さらに気をつける必要があることは、現状の病院PFIのスキームでは、施設の維持管理だけでなく、医療関連サービスを含めたノンコア業務全般をPFI事業者が請け負うこととされています。
しかしながら、これらの業務に伴う将来的なリスクをすべてPFI事業者の負担とすることによって、よけいなスプレッドが上乗せされてしまうことは言うまでもないでしょう。この結果として、前述した建築コストの削減分が喰われてしまうのです。

こうしたことからも、支払いの平準化によって単純に財政負担が軽減されるとの考え方は間違っているといえます。

誤解3:民間的経営が導入されることによって経営が効率化されるのではないか?

民間的な経営とは何でしょう。コストの削減ということであれば、いわゆる「政令8業務」のほかに、すでに医事業務やビルメンテナンス業務など多くの業務がアウトソーシングされています。

病院にとっての「コスト」つまり費用ということであれば、人件費、経費、医療材料費等について検討が必要ですが、最も大きなウェイトを占めているのは人件費です。また、費用のうち医療材料費は医療行為とセットで考える必要があります。

経営の効率化という観点からは、平均在院日数の削減や病床稼働率の向上ということも重要な課題ですし、さらには、病院にとっての「顧客」である患者さんの集客、つまりマーケティングということも今後の病院経営には必要な観点です。

今述べたようなことは、すべてコア業務を行う自治体側が責任を負っています。

PFIによって民間的企業経営が持ち込まれるような見解もあるようですが、こうしたことを考えると、単なる錯覚といわざるを得ません。

誤解4少なくともサービスが良くなるのではないか?

確かに受付業務などに限っていえばサービスは良くなるかもしれません。病院によってはホテル並みの接客サービスを目指しているところもあるでしょう。

しかしながら、こうした方向性はこと医療に関しては間違っています。患者さんやそのご家族との主たる接点は医師をはじめとする医療者です。事実、病院における患者さん等の不満は、医師や看護師の対応に集中しています。

したがって、うわべだけを「民間的」な対応をしても、患者さん等に与えるインパクトは限定的と考えるべきでしょう。


以上、病院PFIをめぐる誤解について検討してきましたが、お読みになった方は、病院事業にはPFIを導入することは大変難しいと思われたでしょう。事実、病院事業にはPFIを導入することは無理なのではないか、との意見もあるようです。

本稿で検討してきたとおり、病院PFIには確かに課題は多いと認識しています。しかしながら、決して病院事業にPFIというスキームを導入することが無理なのではありません。事実、英国では、現状の病院PFIと同じスキームで多くの病院を整備しています。

パブリシヴァでは、むしろ、積極的に病院事業にPFIを導入するべきであると考えています。

その主たる理由はコスト削減ではありません。医療の質、患者さん満足度、さらには患者さんQOLの向上といった病院本来の「サービスレベル」の向上のためです。

そもそも論になりますが、PFIをはじめとするPPPは、民間のノウハウを最大限に活用する点が重要な視点であると認識しています。極論になりますが、日本国内だけでなく、世界中から最高のノウハウを結集し、最高のサービスを提供することが究極的な目標であり、一般会計からの繰入れを減らすなどという議論は、いわば主客逆転の論理です。

本稿では、前回の補足的な意味合いを含めて、現状の病院PFIをめぐる「誤解」という点に的を絞り、前回ご提案した、医療提供を含む「包括型コンソーシアム」方式について検討する必要性について、さらに議論を深められたもの思います。

次回以降は、「包括型コンソーシアム」方式における重要なスキームとなる指定管理者制度についての議論を深めていきたいと思います。