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コールセンターをめぐる自治体版CRMの考え方について~自治体コールセンターの嘘~

マネージングディレクター 松浦 年洋

近年、自治体がコールセンターを設置する事例が増えているようです。
地域住民との「接点」の改善という観点からは、もちろん好ましいことです。しかしながら、こうしたコールセンター設置の流れを「自治体版CRM」と呼んでいることについては、違和感を覚えます。

本稿では、自治体版CRMの考え方について、

①現状の自治体コールセンターをめぐる誤解
②自治体版CRMの本来的意義

の2点について検討してみたいと思います。

現状の自治体コールセンターをめぐる誤解

国内のある大手コンサルティング会社のシニアマネージャーの方が書いたレポートでは、札幌市のコールセンターを「成功事例」と紹介されていますが、自治体の業務の実態を知らない、誤った見解です。

同レポートでは、ある組織の事例として、この組織にかかってきた電話(インバウンド)の8割が「問合せ」に分類されるものであり、かつ、そのうちの約6割が、いわゆる「軽易な問合せ」であったと分析されています。これらの対応をコールセンターに集中化させることで、この組織のオペレーション面での改善が図られ、これまで電話対応に追われていた職員の負担軽減につながる、というのが同レポートの主張です。

「軽易な問合せ」がインバウンドの多くを占めていることは間違いありません。パブリシヴァの分析でも同様の結果がでています。しかしながら、残りの数割の中には、1コール当たり1時間から長いもので3時間かかるものが少なくありませんでした。

「20:80の原則」というものがありますが、こと自治体のインバウンドには、まさにこの状況が当てはまります。つまり、2割のインバウンドが電話対応時間全体の8割を占めており、逆に、「軽易な問合せ」を含む、全体の8割を占めるインバウンドは電話対応時間全体の2割に過ぎないということです。つまり、多額の費用をかけてコールセンターを設置しても、現状では、せいぜい2割程度のインパクトしかないということになります。

また、同レポートでは、コールセンターの設置と併せて、インバウンドを削減するための取組みが必要となると述べられており、そのための方策としてホームページ上での情報発信をより充実させ、住民の「セルフヘルプ」による問題解決を提案しています。一見正しいように思われますが、住民のインターネットの利用実態、あるいは地域性ということをまったく無視しています。

自治体と住民とのチャネルを考えてみましょう。広報紙、インターネット、電話、Eメール、さらには投書など、ありとあらゆるものがあります。こうしたチャネルの利用形態は、年代、さらには利用しようとするサービス等によって異なります。

年代という切り口でセグメントした場合、自治体との接点を必要としている主要な住民は、高齢者です。自治体コールセンター設置の背景には、いわゆる「デジタル・デバイド対策」があげられています。したがって、前述したコール量を削減するためホームページを活用しようというのは、実は矛盾した考えでもあるのです。

さて、高齢者の主要なチャネルは何でしょうか?ホームページでも電話でもありません。実は、「直接出向く」です。

前述したコンサルタントの方は、「問合せ」のうち約6割が「専門知識がなくとも答えられるもの」として分析しています。しかしながら、後述するように、一見(一聴)「問合せ」のように思えても、実は、要望であったり、苦情であったり、提案であったり、さらには問合せを口実にただ誰かと話をしたかった、などという場合が少なくありません。

こと高齢者が「直接出向く」ということには、「社会参加」という大きな意味があります。つまり、きちんと服を着て、電車(あるいはバス)に乗って、(例えば)市役所まで行く、ということは、引きこもりがちな高齢者の方にとって大変重要です。もちろん、何度もご足労をおかけすることが良いこととは思いませんが、前述したような、単なる「問合せ」の中にもさまざまなニーズが隠されていることに十分に留意すべきでしょう。

オペレーション面での改善ということは、それ自体大変重要な意味を持っています。しかしながら、単純に民間的な発想を自治体に持ち込むのは大変危険な考えであり、自治体関係者は、コンサルタントの言うことを鵜呑みにしないように十分に注意しなければなりません。

自治体版CRMの本来的意義

さて話が前後しますが、CRM本来の意義について考えてみたいと思います。

CRMは、Customer Relationship Managementの略で、直訳してしまえば、「顧客との関係をマネジメントする」ということになります。このため、顧客管理のためのデータベース化と誤解されている方もいらっしゃるかもしれません。CRMにデータベース化は不可欠ですが、CRMを構成する要素の一つに過ぎません。

CRM本来の目的は、マーケティングの観点、つまり顧客の満足度を高め、企業により大きな利益をもたらすために行われるものです。コールセンターを設置して、顧客対応を一元化しようというのも、顧客の満足度を高めるための取組みとして必要なことではありますが、CRMイコール「コールセンター」ではもちろんありません。

前述した違和感は、まさにこの点にあります。コールセンターの設置を軸足において、自治体版CRMと呼ぶのは、誤解を生じる可能性があるということです。

では、顧客満足度の向上のために必要なことは何でしょうか?

パブリシヴァは、こと自治体における顧客(住民)満足度の向上のためには、

①職員の資質向上
②住民の「声」の集約と施策への反映

の2点にあると考えています。では、順に検討していきましょう。

①職員の資質向上

住民満足度の向上のためには、2つの方向性があります。すなわち、①提供するサービスを拡充し、②住民からの苦情を減らす、ということです。

②の住民からの苦情を減らすためにはどうすべきでしょうか?
必ずしも①の提供するサービスの拡充ではありません。

住民からの苦情でもっとも多いのは、「職員の対応」です。
原因としては、①民間企業における顧客対応レベルの目覚しい向上と、②自治体と住民との接点の少なさ、にあると考えています。

①については、言うまでもなく熾烈な企業間競争の賜物でしょう。ここでは、②について説明します。

民間企業と自治体との違いのひとつに「対価の支払いのタイミング」があります。民間企業から商品やサービスを購入する際には、購入と同時に対価を支払うことが一般的です。つまり、消費者は、特定の商品なりサービスに対して対価を支払っているわけです。このとき、購入した商品やサービスが、支払った対価以上の価値があると消費者が感じれば、顧客満足度は高まるわけです。

一方で、自治体が提供するサービスは、一部の受益者負担を求めるサービスを除き、基本的に住民が支払う税金によって賄われます。つまり、住民はサービスの対価を事前に支払っているわけです。しかも、この税金は、支払先が、国、都道府県、市区町村と分かれています。このため、住民の多くは、どこにいくら支払っているかということを意識する機会はあまりないでしょう。

これに加えて、自治体が提供するサービスは、サービスの提供主体と無関係に、住民が無意識のうちに利用するものが数多くあります。典型的な事例は、道路です。

道路(歩道も含みます)は、国道、県道、市道と管理者が分かれていますが、例えば、県道を利用する際に、「この県道は、僕(私)が支払った県民税で維持管理されているんだ」と考える人は多くはないでしょう。

つまり、自治体と住民との関係は、民間企業のように商品やサービスを直接の媒介とはしていない、すなわち、前述した①の提供するサービスの拡充だけでは、必ずしも住民の満足度の向上には直結しないということを認識する必要があります。

では、なぜ「職員の対応」に苦情が集中するのでしょうか?

理由は簡単です。住民と自治体の直接の接点が職員だからです。
たまたま何か事情があって市役所に問合せをしたとしましょう。たらい回しをされた挙句に、初期の目的を達成できなかったとしたら、当然、不満が募るでしょう。普段、自治体との直接の接点がない住民にとって、この不満こそが、その市役所に対する「直接的」な評価になってしまうのです。

近年では、自治体職員の接遇面も随分と改善された感がありますが、もちろん民間企業と比べれば、その差は歴然です。

このため、自治体におけるCRMを考える際は、職員の資質向上、具体的には、知識面での向上を図ることがの第1のポイントです。

こと、コールセンターは、前述したとおり、自治体のIT化の延長線上で、デジタル・デバイド対策として検討されている自治体も多いと思います。しかしながら、初期投資に加えて、毎年のランニングコストを考えると、費用対効果という観点からは、まず職員教育に注力すべきではないでしょうか。

②住民の「声」の集約と施策への反映

次に、①をクリアしたという前提で、CRMという観点から「自治体」コールセンターの役割について検討してみます。

自治体コールセンターは、前述したとおり、「自治体版CRM」にとって必要なものです。しかしながら、真のCRMという観点からは、現状の自治体コールセンターでは不十分であると考えています。

パブリシヴァが考える、自治体コールセンターの要件は3つあります。

①住民の「声」が集約されるものであること
②集約された情報が、意思決定に貢献する定量的なデータとして分析可能であること
③実際に施策へ反映されること

では、順に検討してみましょう。

①住民の「声」が集約されるものであること

自治体コールセンターは、前述したデジタルデバイド対策のため、いわゆる「軽易な質問」に答えることに主眼を置いています。コールセンターの専用ダイヤルに電話をすれば、イベント情報や担当部署を案内してもらえるというものです。

一方で、実際に自治体にかかってくる電話(インバウンド)は、コールセンターのほかに、代表番号経由、担当課への直通などさまざまです。

パブリシヴァの試算では、およそ人口10万人に対し、年間のインバウンドは少なくとも20万件あると考えています。コールセンターは、このすべてのインバウンドに対応できなければなりません。

現状でのコールセンターへのインバウンドは、数パーセントに過ぎないでしょう。自治体コールセンターが、単なるコストセンターで終わるのかどうかは、このインバウンドの集約にかかっているものと考えています。事実、民間企業では、「大代表」をコールセンターとしている事例もあります。現実的に大代表までをコールセンター経由とすることが可能かどうかはともかくとして、コールセンターの導入に当たって検討されるべきであると考えます。

②集約された情報が、意思決定に貢献する定量的なデータとして分析可能であること

自治体コールセンターでは、どういった内容に関する問合せがあったのか、ということを月次で取りまとめていると思います。しかし、重要なことは、「問合せの目的別」に分類することです。つまり、単なる「問合せ」なのか、それとも「苦情」なのか、あるいは「要望」なのか、ということが、データベースに含まれている必要があるということです。

単なる問合せであれば、それで完結します。しかし、「苦情」や「要望」であれば、施策の見直しを、少なくとも検討する必要があるでしょう。

かつ、「苦情」や「要望」のように思えても、実は住民の「誤解」である場合も多く、結果として、単なる問合せとして分類すべき場合もあります。

コールセンターのデータベースは、こうしたケースを想定して作成されなければなりません。

③実際に施策へ反映されること

実際に「苦情」や「要望」としてスクリーニングされたものについては、少なくとも検討されなければなりません。この際、明らかにそのボリュームが突出しているものについては、できるものはすぐに、予算措置が必要なもの等については、次年度以降の計画を立案すべきです。

この際、こうした検討結果について、後年度においてフォローされる仕組みが必要です。

まとめ

コールセンターを設置する流れについては、しばらくは(細々と)続くだろうと予測しています。しかしながら、その際には、前述したような観点、特に費用対効果という点については十分に検討する必要があると考えます。また、コールセンターのあり方にしても、一元化すべきなのか、あるいは分散化すべきなのか、ということについても検討する必要があります。

少し前になりますが、ある大手ベンダーの担当者の方と話をしたときに、コールセンターの核となるデータベースのコンセプトそのものが、まだまだ発展途上であると感じました。つまり、コールセンターとしての最適化を図ろうとするあまりに、最終的な「成果」という点が見過ごされているということです。オペレーションの精度を高めようとすればするほど、ますますコールセンターは複雑になっていくでしょう。部分最適を追い求めた結果、残されるものは多額のランニングコストでしかありません。

パブリシヴァでは、独自に開発したFAQシステムを、現在、ある組織でテスト運用を行っているところです。関心をお持ちの方はぜひお問合せください。