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英国の事例に学ぶ、官民のパートナーシップを確立するための教訓

マネージングディレクター 松浦 年洋

官民のパートナーシップを確立するための重要なポイントについては、これまで「法律分化」における連載やPFI/PPP推進協議会における病院PFIセミナー等を通じて、お伝えしてきましたが、この点について、(株)NTTデータの公共ビジネス推進部が発行している「社会情報システムレポート」(2001)において、英国最大のシンクタンクであるIPPR(Institute for Public Policy Researc)のリサーチディレクター(当時)のガヴィン・ケリー氏が、英国の事例に基づき、大変簡潔に整理しているのでご紹介したいと思います。

同レポートは同社が社会情報システムに関する海外及び日本における調査結果等を取りまとめたもので、大変示唆に富んだものとなっています。情報システムに関連する内容が中心ではありますが、マネジメントにかかわる方にも、ご一読をお薦めします。

さて、ケリー氏は、官民のパートナーシップを確立する上で、官民それぞれに改善すべきポイントがあると述べています。本稿ではこれらのうち、「公共団体における問題」に的を絞って検討したいと思います。なぜならば、PFIを始めとするわが国におけるPPP(Public Private Partnership)は、指定管理者制度の導入を契機として民間事業者からさまざまな問題点が指摘されていますが、パブリシヴァが実際に実務に関わっている中で、主として官側における改善が急務であると考えているからです。

ケリー氏が指摘している内容は、PPPの実務に携わっている方であれば、当たり前すぎることかもしれません。しかし、これらを実践できている自治体は少ないのが実情ではないだろうかと思います。指定管理者制度を始めとするPPPの実務の現場では、「事業の目的」や「事業によって得られる住民にとっての成果」といった本来検討されるべきことよりも、書類作成などの手続面にばかり時間を割かれてしまっているからです。

ケリー氏の指摘から学ぶべきことは、こうした問題は、日本に固有のものではないということです。つまり、PPP先進国である英国ですら、さまざまな課題がある中で、PPP後進国であるわが国としては、こうした「教訓」を十分に生かさなければならないと考えています。

では、以下、その「教訓」について、日本における現状と照らし合わせつつ検討をしたいと思います。

ケリー氏の指摘する8つのポイント

ケリー氏は、自治体サイドにおける課題として、次の8つのポイントを挙げています。

①調達に関する専門的な知識の向上や共有がなされていない
②調達担当者の立場が比較的低い
③近隣の自治体との情報交換の機会がない
④サービスの品質に重点を置いた契約書が作成されていない
⑤期待されるサービスの成果が重視されていない
⑥市場形成のスキルが未成熟
⑦利潤分配条項が明記されていない
⑧契約の締結までに長期間を要する

これらの指摘は、きわめて的を得ています。しかしながら、こうした教訓を生かそうとしたときの問題点は、実際に実務に従事しなければ、その意味するところを具体的にイメージできないということでしょう。そこで、以下、ケリー氏の指摘について、自治体の固有の課題を前提としつつ、具体的な解決策を検討してみたいと思います。

①調達に関する専門的な知識を向上し、共有すべき

PPPについては、高度な専門性が求められます。私自身、初めてPFIという仕組みについてのレクチャーを受けた際には、スキームそのものが理解できても、実際にどのように活用すべきか、そのためにどのような手続きが必要なのか、ということがまったくイメージできませんでした。事実、PFIを活用する際には、事業そのものがPFIに適したものなのかどうか、具体的には、民にリスク移転が可能なのかどうか、VFMという観点からはどうか、民間事業者にとって採算性のある事業なのか、マーケットや条件面での魅力はあるのか、さらには、事業者をいかに選定すべきか、事業の継続性を確保するためにはどうすべきか等々、さまざまな課題についての知識を前提として、検討が進められなければなりません。

多くの自治体では、PFIや指定管理者制度の導入に関するガイドラインが策定されていますが、その多くは基本的な流れを定めたものに過ぎません。結果として、詳細については事業ごとに検討されなければならず、ガイドラインが実務的な面で役立つことは少ないだろうと思います。

現在では、PFIや指定管理者制度の導入事例が増えたこともあり、他の類似事例を参考にして実務を進めることが可能となりましたが、必ずしもベストプラクティスと呼べるものがあるというわけではありません。すべてが思考錯誤なのです。一方で、各自治体では、PPPの導入に当たって専門の部門を設置することが困難という状況があります。結果、担当者がいわばやっつけ仕事で、何とか期限までに「処理」せざるを得ないというのが、現状でしょう。

こうした中、シンクタンク等を始めとするアドバイザリーを活用する自治体も多いと思いますが、PPPのマーケットが英国のように成熟していない日本においては、アドバイザリー側も試行錯誤であり、アドバイザリーフィー(費用)に見合った効果が得られるとは限らないのが現状でしょう。特に指定管理者制度に関しては、PFIのようなガイドラインもなく、いわば「何でもあり」という状態です。裏を返して言えば、きわめて「柔軟性」があり、自治体の創意工夫によって活用可能な制度であるともいえますが、参考となる事例はまだまだ少数です。つまり、「玉石混合」というのが日本におけるPPPを取り巻く環境であろうかと思います。

この点について、これまで病院PFI、指定管理者制度の導入等の実務に携わってきた経験から、数点ご助言したいと思います。

・まず、自治体担当者に求められる知識やスキルが、明らかに変わったということを認識すべきです。これまでは、自治体直営というサービスの提供形態が主体であったため、職員は担当事業に関する知識さえあればよしとされました。かつては、国が通知等によって各自治体に対して細部にわたり「指導」していたため、実務を行う自治体の職員には、そうした細かな知識を身に付けることが、求められる「能力」の第一条件でした。しかし、PPPでは、こうした知識に加えて、協定を締結する際の法務的な知識や、リスク管理、モニタリングといった、より専門的かつ高度なスキルが不可欠となってきます。

・さらに、こうした知識やスキルを職員間で共有する仕組みを、組織的に構築することが必要となってきます。このため、各自治体は、こうした知識やスキルについて、実務研修を実施する、あるいは専門部署を創設し集約化する、といった工夫をしなければならないでしょう。

・また、この組織内部における情報共有をさらに進め、自治体間での情報共有が行われるようになる必要があるでしょう。民間のシンクタンクを始め、民間事業者の方のご尽力で、情報収集はかなり容易になってきました。しかしながら、各自治体のホームページを参照しても、具体的な情報が掲示されていない場合も多いのが現状です。各自治体の取組み事例は、全自治体にとっての資産であると認識し、積極的に情報公開、情報発信することが必要になってきます。

・付け加えるならば、PPPはあくまでも手段であるということです。使い方を間違えば、逆にコスト増、住民サービスの低下ということを引き起こしかねないということを、十分に念頭に置くべきでしょう。重要なことは、民営(民営化ではありません)によって、コストが当然削減されるかのような「錯覚」を持たないことです。

②調達担当者の立場が比較的低い

英国では、専門性の高いポジションであるにもかかわらず、相応の処遇がなされていないために、人材の流出が起きてしまっているようです。つまり、職員の「退職リスク」への対応が必要となるということを、ケリー氏は指摘しています。日本では、英国ほど「退職リスク」を意識することはないでしょうが、人事異動等によって、担当職員が有していた知識やノウハウを無にしてしまうということが日常的に行われています。自治体という「巨大組織」を運営する上で人事異動は必要なことではありますが、そうした一方で、こうした知識やノウハウを組織的に共有する仕組みが必要です。つまり、①で述べたとおり、組織的に情報を集約する仕組みが必要になるということです。

また、余談にはなりますが、英国で質の高いアドバイザリーが可能なのは、今述べたように、自治体で実務を担当していた人材の流出によるところも大きいのではないでしょうか。日本では、こうした人材の流失が少ないということだけでなく、アドバイザリーが、自治体実務の経験者を積極的に採用するなどの工夫も必要となるのではないかと考えています。

③近隣の自治体との情報交換の機会がない

近隣の自治体との情報交換の機会がないことによる問題点について、ケリー氏は、①優れた事業者や効果的な契約モデルや、②(サービス低下等の)PPPの失敗事例について自治体間が情報共有することが必要であるということを述べています。この点、自治体間における競争原理ということが取り上げられることがありますが、その際には、いわゆる「企業秘密」といったものを前提とすべきではないと思います。自治体間で知識やノウハウといったものを「共有」することによって、自らの顧客である住民の満足度を向上させることができるのであって、住民福祉の向上という観点からは、知識やノウハウを「囲い込む」ことによって、他の自治体との差別化を図る必要はありません。したがって、各自治体は積極的に情報を提供すべきであり、言い換えれば、積極的に情報提供することが、自らの組織的な能力の向上に貢献すると認識すべきです。

④コストだけでなく、サービスの品質にも重点を置いた契約を作成すべき

いわゆるコスト重視の契約によって、結果としてサービスの質的低下を招いたというのが、英国における教訓です。日本では、現時点ではPPPがまだ始まったばかりというべきであり、コストについてすら、ほとんど評価がなされていないのが現状でしょう。シンクタンクのレポートの中には、自治体アンケートの結果として、コスト削減がある程度は実現されていると言及されているものもありますが、パブリシヴァは、この結果に疑問を持っています。。

通常、こうしたコスト比較は、単年度のランニングコストで測定される傾向にあり、イニシャルコストや移行コストといったものを含めたLCCで比較されることは少ないと思います。ランニングコストだけであれば、例えば、委託料を従前の人件費プラス維持管理費等よりも安価に設定すれば、間違いなくコスト面での効果があるとの結果になるでしょう。しかしながら、制度導入に当たっては、協定書作成等の職員の人件費を考慮しなければなりませんし、また、導入後は、モニタリング費用や、次期選定作業の費用をLCCとして計上されなければなりません。したがって、ランニングコストでほぼトントンという場合には、むしろコストが増えているという場合もあると考えるべきです。

なお、サービスの質的側面に関しては、指定管理者制度を例に、PPPを導入する際の「住民価値」について、「法律文化」で詳しく説明しているので、関心のある方はご参照ください。

⑤民間企業を抑制するのではなく、期待するサービスの成果を重視すべき

この点については、2つの極端な傾向が見られます。つまり、①PDCAサイクルを徹底するあまり、あまりにも詳細なアウトプット仕様を作成してしまう場合、②民間企業にとって抑制的な事項については、一切契約から排除してしまう場合、です。
ケリー氏の指摘は、①のケースを想定していると思われます。つまり、自治体にとってPPPを導入することの意義は、結果において評価されるべきであり、プロセスについては基本的に条件とすべきではないということです。

例えば、トイレの清掃ということを考えてみましょう。仮に「1日に3回必ず清掃すること」との条件を設けたとします。本来は、衛生面はもとより、利用者から苦情がこないような「清潔さ」を条件として、その測定方法について検討すべきであり、3回清掃したからといって「清潔さ」を維持できるとは限りません。極端な例ですが、午前中に3回清掃して、午後は一切しないということも考えられるからです。
清潔さの測定方法は、もちろん簡単ではありません。しかし、少なくとも利用者にとって不快にならないような方策は考えられるでしょう。例えば、従業員もトイレを利用するのであれば、その際に、汚物があれば自ら清掃するように教育する、などです。

つまり、こうしたノウハウを活用することこそに民間事業者を活用する意義があるのであって、ケリー氏のいうとおり「期待するサービスの成果」を事業者に提示することが必要なのです。

こうした一方で、民間事業者に丸投げしてしまうという事態も生じているも事実です。民間事業者の創意工夫を活用するということを建前にするのであればまだしも、民間事業者の方が自分たちよりもうまくやってくれるはずだ、という暗黙の思い込みは捨てるべきでしょう。
パブリシヴァでは、民間事業者に対する適切なインセンティブがあって、初めて事業目的が達成されるものと考えています。その仕組みは、「自治体による適切な目標の提示と評価」および「結果に対する民間事業者のアカウンタビリティ」です。
民間事業者も、利用者に満足してもらいたいと考えている点では自治体と気持ちは同じはずです。しかしながら、その結果を自治体が適切に評価しようという姿勢がなければ、当然のことながら、民間事業者のインセンティブを引き出すことは困難であると認識すべきでしょう。

⑥市場形成のスキルを習得しなければならない

ケリー氏の指摘は、大企業によりマーケットが独占されるような状態を解消するための工夫を、調達サイドで行う必要があるということです。確かに、ことITベンダーの囲い込みのような事例は、依存関係の典型でしょう。
この点については、指定管理者制度を例にすれば、NPOのような比較的小規模な団体の参入事例があり、マーケットの形成という観点からは、企業の規模にかかわらず民間事業者が参入しやすい環境を整えることがより重要となってきます。
マーケットの形成という点については、募集に当たっての周知方法や応募が1団体からしかないなどの選定に当たっての課題が浮かび上がってきます。今後の課題ではありますが、少なくとも、自治体の担当者が、民間企業における事業モデルについて理解を深める必要があると考えています。
例えば、利潤とは、売上から費用を差し引いたものであり、費用が売上を上回るような案件では当然のことながら、受け皿になろうという事業者は現れません。計画段階では、人件費を過小に評価など採算性のある事業として評価することもできますが、あくまでも、現実的に採算割れのない案件であることが第1のポイントになります。
さらに、事業の成立には、投下資本の回収というプロセスが不可欠であるということも知っておく必要があるでしょう。例えば、指定管理を開始するに当たって設備投資が必要な場合は、民間事業者は資金をどこからか調達をし、管理期間中に返済しなければなりません。こうした資金調達に要するコストも、当然のことながら前述した費用に含まれているのです。
過大な整備投資を要求し、かつ指定期間中に投下資本を回収できないといったケースでは、事業として成立しないと考えるべきです。

こうした事態を回避するためには、事業計画の段階から、収支計画や地域におけるマーケット特性等を十分に検討することが必要となりますが、最低限、ターゲットとなる企業から、事前に募集に当たっての参入障壁の有無等について意見を徴収すべきです。

⑦利潤分配条項を明記すべき

この指摘は、官民にとっての適切なインセンティブの必要性を述べたものですが、この点について誤解もあると思われるので簡単に説明をさせていただきたいと思います。

まず、独立採算型にせよ、依託型にせよ、要求水準を満たしている(期待した成果を生み出している)場合には、その結果として生じた利潤は、当然民間事業者に配分されるべきものです。もちろん、利潤動機によってサービス水準が低下するとの指摘もある中では、過大な利潤が生じた場合の対応を検討する必要はあるでしょう。
導入初期の段階では、マーケット環境の変化や見込み違いなどによって、過大な利潤が生じる可能性があります(もちろん、大きな損失が生じる可能性もあります)。その際は、適切な利益配分(例えば、折半とするなど)について民間事業者と十分に協議する必要があるでしょう。
私が手がけた病院の事例では、独立採算であること、かつ設備の更新が必要になること等から、利潤についてはすべて団体のものとし、将来的な設備投資の原資とすることを原則としつつ、前述した市民感情等との兼ね合いから、利益の10分の1については地域に還元するよう求めています。
いずれにせよ、利潤そのものは、民間事業者にとって事業運営のためのエンジンであり、それ自体に嫌悪感を持つことは誤っています。問題は、その利益がどのように事業に再投資されるのか、あるいはインセンティブとなるのか、といった点について、自治体が議会等に対して説明できるような準備が必要であるということです。

⑧契約の締結までに長期間を要する

この指摘は、契約の締結までの間に生じうるリスクについて述べたものであり、官民双方にとって無視できないものです。
例えば、指定管理者制度の場合でも、導入までには少なくとも1年はかかります。この間、自治体の担当者としては、条例の制定や選定委員会の運営、さらには議会対応など、手続き的な面で奔走することになるでしょうが、同時に、外部環境が変化するリスクについても認識しなければなりません。

前述した病院の場合、構想当初は、必要な機能を有する病床(病院)が圏域内に不足していたため、自治体が公設で病床を充足する必要がありましたが、その後の政府の病床転換の措置などによって、開設直前になって相当程度、必要病床が充足されてしまいました。
こうした場合、民間事業者にとっての採算性にも大きく影響を与える上に、自治体としては、公設目的についての論拠が弱くなってしまいます。
最善の方策としては、できる限り速やかに制度を導入するということですが、スキーム上、どうしても年単位での期間を要することから、外部環境の変化をリスクとして認知することが必要になるのです。


以上、ケリー氏が指摘する「自治体における問題点」について検討してきましたが、こうしてみると、PPPによる事業を成立させる上で、いかに官側の役割が大きいかということがお分かりになるでしょう。
そもそも、ケリー氏が同レポートの中で、PPPと民営化とは区別して考えなければならない、と述べているように、PPPとはあくまでも官が事業主体であり、民が事業主体となる民営化とは異なるということを認識しなければなりません。
なお、効率化という観点からは、民営化(具体的には民間譲渡)も含めて検討がなされることになると思いますが、その場合、民営化は、効率化ではなく、官が果たすべき役割か否かとの観点から整理されなければなりません。

いずれにせよ、官民のパートナーシップの確立にとって、これまで以上に官側の努力が求められることになるでしょう。パブリシヴァでは、今後、良質な事例を参考としつつ、官民双方にとって有益な情報を提供するよう努力してまいります。