自治体ベストプラクティスの幻想について
マネージングディレクター 松浦 年洋
「ベストプラクティス」の本来的意義
「ベストプラクティス」という言葉は、民間企業の優良事例を紹介するときによく耳にします。ことビジネスの領域では、競争環境を分析する上で、競合他社の取り組みや優れたビジネスモデルについて情報収集することは欠かせない作業です。
具体的には、バリューチェーン、つまり顧客に価値を提供するまでのプロセスを自社と比較したり、あるいはプロフィットツリー、つまり利益を生み出す要因ごとに自社と比較することによって、自社の弱みを発見し、改善につなげることができるわけです。
競合他社の優良事例を参考にするという発想は、今見たようにビジネスの領域ではごくごく自然なことであり、自治体経営でも同様のアプローチが可能ではないかと考えても何ら不思議ではありません。しかしながら、そこには大きな落とし穴があることに注意しなければならないと考えています。
自治体ベストプラクティスの落とし穴
まず、現状では、自治体経営におけるベストプラクティスは存在しない、ということを確認したいと思います。厳密には、将来的にベストプラクティスと呼ばれる可能性のある事例しか存在しない、と言うべきでしょう。なぜならば、多くの自治体の取組みは、アウトカムはもちろん、コストの面でも適正に評価されていないのが実態だからです。
先日、あるシンクタンクの客員研究員のレポートで、「他の自治体のベストプラクティスを真似すべきである」との提案を拝見しました。ことITを活用したコスト削減が極めて有効であると述べられていましたが、こうした主張には残念ながら違和感を感じざるを得ません。
自治体のIT化については、費用対効果という点で、一時の盛り上がりはすでに失われています。他のエントリーで述べたコールセンターもその最たるものであり、こうした目新しさに惑わされてベストプラクティスと呼ぶのは気が早すぎます。
ことIT化は、初期投資やランニングコストに加えて、最終的に情報を扱う職員の人権費を考慮しなければならなりません。安易に「パーケージ」を導入した場合、膨大な例外処理が発生して、かえって職員の負担が増える可能性すらあることを十分に考慮すべきでしょう。
自らがベストプラクティスになる
重要なことは、他の自治体のやっていることで「良さそう」なことを真似するのではなく、「うまくいっていない点」を見つける(聞き出す)ことであり、最終的な目標は、「自ら」がベストプラクティスとなることだと考えます。自治体経営は、これまで横並びの世界であったため、先行事例があれば、それが「答え」のように思われてきましたがが、実はどこにも「答え」はないと認識すべきです。
したがって、ベストプラクティスを真似せよなどという言葉に惑わされることなく、受益者にとってのベネフィット、あるいは長期的にみた場合の費用対効果という点からベストプラクティスを目指す努力が自治体には求められるのです。
パブリシヴァでは、こうしたことを踏まえ、自治体を始めとする非営利分野に関連するレポートを公表するとともに、インターネット上で公表されているレポートを対象として、非営利分野における「有益性」という観点から独自に評価を行う「Publiciva R2 Evaluation Program」を開始しております。より良質なレポートが多くの人に読まれることによって、非営利組織「内部」からの変革が推進されることを期待しています。
※Publiciva R2 Evaluation Programについては、
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