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病院PFIの新たな展開(その6)~公立病院改革ガイドライン(案)をどう読むか?~

マネージングディレクター 松浦 年洋

総務省の「公立病院改革懇談会」から「公立病院改革ガイドライン(案)」(平成19年11月12日)が提示されて以降、国内のシンクタンクのニューズレターをはじめ、さまざまなメディアでその内容についての所見が述べられています。しかしながら、厚生労働省で公立病院改革に関する総務省との協議等に携わった立場からは、こうした所見の中に、違和感を感じるものがいくつか散見されます。

例えば、今回のガイドラインで示された「再編・ネットワーク化」という点について、あるシンクタンクの研究員は、「異なる経営主体間での機能分担は難し」いことから、経営主体の統合が必要という「踏み込み方をしたのではなかろうか」と述べています。経営主体の統合は病院機能の機能分化のための一手法に過ぎず、さも統合によって機能分化が促進されるかのような暗黙の前提条件を無意識のうちに念頭においている点において、読者を誤解させる、誤った所見といわざるを得ません。

経営主体の統合は、経営資源の効率化を図るとの観点からは、ひとつの解決策となるでしょう。しかしながら、地方公営企業法の適用を受ける病院事業を例にとれば、事業管理者の強力なリーダーシップがあって初めて可能となるものであり、民間企業の合併事例を見ても、経営主体の統合が最適解ではないことは明らかです。

ガイドラインでも、経営の効率化に当たっての留意点として、「経営感覚に富む人材」の必要性が述べられているとおり、現実的には、経営主体がひとつであるかどうかにかかわらず、地域においてリーダーシップを発揮しうる人材を、いかに発掘し、活用するかが重要なポイントであることが留意すべきです。

こうした誤った所見は、こと国内のシンクタンクのレポートに散見されるように思われます。レポートの中には素晴らしい切り口で、医療分野に新たな視点をもたらしてくれるものもありますが、多くは、医療の世界を外から眺めただけの毒にも薬にもならないものばかりといわざるを得ません。しかしながら、いわゆる第三者として、外から医療にかかわるシンクタンク等においてはこうしたことはやむを得ないのでしょう。

私が、厚生労働省における医療政策、自治体病院の経営改善プランの策定、さらには新規病院の運営企画等に従事した経験からすれば、官民の接点が少ないことに大きな問題があるように思います。この点については、シンクタンク等は、自治体出身者を積極的に登用するなど、自治体固有の文化についてより理解を深める必要があるでしょう。こと自治体病院に関しては、病院の経営効率という観点だけでなく、地域の医療政策、社会保障分野における適切な財源の配分、さらには医療の質的側面といったきわめて専門的かつポリティカルな課題を抱えているからです。

さて、シンクタンク等に対する苦言はこの程度にして、本題である公立病院改革ガイドライン(案)について検討していきましょう。

まず、このガイドラインが、規制改革会議からの提言に基づくものであることを確認したいと思います。つまり、ガイドラインが「踏み込」んだものであるということではないということです。

そもそも、従前から自治体病院の存在意義等に対する懸念が示されている中で、これまでも、異なる経営主体間での財務諸表を比較可能とするためのガイドラインの策定、自治体病院に対する病院機能評価の受審の促進 等、さまざまな取組みがなされてきました。しかしながら、税制面での優遇措置を受けながら、一向に改善されない自治体病院経営に対し、診療報酬のマイナス改定に悲鳴をあげる民間病院とのイコールフッティングの観点からも、さすがに堪忍袋の緒が切れた、というところでしょう。

そういう意味で、「踏み込」んだのではなく、踏み込みざるを得なかったと考えるべきです。

さて、ガイドラインには、「3つの視点」として、①経営効率化、②再編・ネットワーク化、③経営形態の見直しが示されていますが、いずれも、ターゲットは、①の経営効率化と考えるべきです。すなわち、②や③は、「経営効率化」の手段として認識すべきであると考えています。

「民間的経営手法の導入」という点について、特段の意義はありませんが、留意すべき点は、民間企業の「優れた」点のみを参考とすべきである、ということです。誤解されている方もいると思うので、念のため申し上げると、経営手法という観点から民間企業が必ずしも優れているとは限りません。だからこそ、ガイドラインにも、民間「的」と記載されているのです。

これは筆が滑ったからではなく、意図的にそう読み込むという点に留意が必要です。事実、民間企業のすべてが素晴らしい企業であると考えている方はいないと思います。自治体への不信感は夕張市の事例などからも、ますます大きくなっていることを実感していますが、一方で企業における不祥事も日本という国を根幹から揺るがすほど大きな影響を与えていることに異論を唱える方はいないでしょう。

では、民間企業の優れた点とは何でしょうか。それは、経営改善に向けたインセンティブが組織的に働き易いという点に尽きると考えています。つまり、競争環境というインセンティブが効率的・効果的な経営を促すのであって、競争環境そのものが優れた民間企業を生み出すのではないということです。事実、非営利分野でも優れた組織の事例は数多くあります。

すなわち、問題とすべきなのは、自治体病院におけるインセンティブが効果的に機能していないという事実であるということです。

この点については、実は民間病院でも同様であると考えています。診療報酬が右肩上がりで改定されていた時代には、経営ということを考えなくても、結果として黒字経営をすることができました。ところが、2000年のマイナス改定に始まり、病院にとっての大氷河期時代を迎えるようになって、やっとコスト削減などといったことを口にするようになったのであって、インセンティブの欠如というのは、すべての病院に当てはまるもの、といえるでしょう。

医療系のコンサルタントと話をすると、現状ではコンサルティングに対するニーズが少ないために大変苦労していると聞きます。つまり、この大氷河期時代に突入しているにも関わらず、医療界においては、病院経営を真剣に考える人材はごくごくわずかであるということです。

さて、こうした中で自治体病院がどうすべきかということを考えてみましょう。

自治体病院改革において重要なことはインセンティブであると述べました。つまり、経営の効率化は、現状でも相当程度可能であるということです。事実、自治体病院の中でもきちんと黒字経営している病院は存在します。まずは、病院内部において、赤字になっている原因は何かを突き止め、組織的に情報共有することが必要です。その際は、あれもこれもと手をつけるのではなく、もっともインパクトの大きな要素に着目すべきです。

ガイドラインでは、いくつかの指標が示されていますが、重要なことは、

①収入に関するもの、と
②費用に関するもの

とに分けて考えることです。例えば、ガイドラインに示されている「病床利用率」は①収入に関する指標であり、「材料費対医業収益比率」は②費用に関する指標になります。

パブリシヴァが分析した総合病院の事例でご説明しましょう。

この病院の場合、収入と費用とを比較した場合、明らかに、費用面での課題が存在することが判明しました。費用のうち、特に経費及び材料費の見直しをすることによって、数億円程度のコスト削減が見込まれたのです。

病院内部では、もっぱら病床利用率に問題があるとして、いかに空床を減らすかという点ばかりに目を向けていましたが、実はコスト構造を見直さなければ、入院患者をいくら増やしても経営改善には大きなインパクトは得られないということに留意すべきでしょう。

今回は、「直営」を前提として、経営効率の改善は可能であるという観点から検討をしてきましたが、病院PFI等の民間ノウハウを導入する際にも、病院にとっての、いわば「弱み」を克服する観点から行われる必要があります。ガイドラインに示された指標等を活用する際には、まず、自院の現状について適切に把握することから始めるべきです。

※パブリシヴァでは、2008/02期のベストレポート等を公表しております。併せて、ぜひご利用ください。